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第56回日本薬剤師会学術大会(和歌山)ポスター発表

保険薬局における吸入指導承諾者と非承諾者の患者特性に関する後方視的調査
浦上 勇也

【背景】気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患治療において吸入療法は重要な位置を占めている.近年,吸入薬の種類やデバイスが増加したこと,及び院外処方箋の増加により,保険薬局における吸入指導の重要性が増している.しかしながら,薬剤師によ吸入指導を拒否する患者も少なくない.

【目的】本研究は,薬剤師による吸入指導 の提案を患者がどの程度承諾するかの実情,及びそれら患者の特性を明らかにすることを目的に後方視的に調査した.さらに,承諾者において吸入手技不良の要因について解析した.

【方法】対象は,吸入薬の処方箋を持参した20歳以上で,デモ器を用いた吸入指導を薬剤師が提案した者とした.評価項目を年齢,性別,適応疾患,吸入デバイス,現吸入デバイスの使用期間,吸入指導の承諾の有無,吸入手技,吸入アドヒアランス,及びかかりつけ薬剤師制度利用の有無とし,調剤録及び薬歴を後方視的に調査し,承諾者と非承諾者で比較した.承諾者においては薬剤師による 吸入手技評価を調査し,吸入手技良好者と不良者の特性から吸入手技不良の要因について解析した.

【結果】解析対象283名において,薬剤師による吸入指導の提案承諾群155名(54.8%),非承諾群128名(45.2%)と,非承諾者が半数存在した.吸入アドヒアランス良好者は,承諾群131名(84.5%),非承諾群95名(74.2%)と, 承諾群で吸入アドヒアランス良好者の割合が高かった(P = 0.037).かかりつけ薬剤 師制度利用者は,承諾群12名(7.7%),非承諾群1名(0.8%)と,承諾群でかかりつけ薬剤師制度の利用者が多かった(P = 0.008).承諾群のうち,吸入手技良好者68名(44%),吸入手技不良者87名(56%)と,半数以上が適切な吸入手技を行えていなかった.吸入手技不良と関連していた因子は75歳以上,使用期間4年以上であった.

【考察】薬局薬剤師が行う吸入指導において,半数以上の患者が指導を拒否 していること,さらに吸入指導の承諾者のうち半数以上で吸入手技に問題があり,75歳以上,及び吸入デバイスの使用期間が4年以上の者が吸入手技不良の要因であった.潜在的吸入手技不良者が多数存在すると考えられ,保険薬局において吸入指導を確実に実施するには,医師と薬局薬剤師が連携することと,かかりつけ薬剤 師制度の活用が重要になる可能性がある.


煩雑化する薬剤師業務の評価~調剤管理加算の新設~
瀧川 和広

【目的】2022年4月の改定より、調剤管理加算が新設された。これは複数の医療機関より6種類以上の内服薬が処方された患者が、薬局を初めて利用する場合又は2回目以降の利用において処方内容が変更された場合であって、当該患者が服用中の薬剤について必要な薬学的分析を行った場合の評価を行うものである。薬剤師の業務が、 薬剤の種類が増える事、複数の医療機関になる事により、薬学的確認項目が増える。つまり今回の改定での調剤管理加算は、煩雑化する薬剤師業務への評価であると考える。今回どれほど薬剤の数や複数となる医療機関が、薬剤師の業務に影響があるかを測る指標として、疑義照会とトレーシングレポート等のカウントで比較し、分析する。

【方法】2022年5月1日から2022年10月31日の期間に来局した患者に対し、疑義照会・トレーシングレポート等を行った患者情報をもとに、調剤管理加算が算定された群と算定されなかった群に分けて分析する。また、算定されなかった群の うち服用薬剤が6剤以上か、5剤以下か、受診中の医療機関が複数か、単数かを細かく分類する。

【結果】6カ月の調査期間中に疑義照会154件、トレーシングレポート117件の合計271件であった。その内、調剤管理加算算定は27件、未算定244件であった。また、未算定の244件中、薬剤数6剤以上は147件、5剤以下は97件であった。複数医療機関は67件、単数は177件であった。
【考察】調剤管理加算は複数医療機関、6剤以上で処方薬剤変更時にのみ算定可能な加算である。日常業務の中で疑照会、トレーシングレポートは薬剤数や、医療機関数、処方変更に関わらず積極 的に行っている。今回、疑義照会・トレーシングレポートを提出した患者に限定し分析を行ったが、調剤管理加算算定につながる患者は多くはなかった。複数医療機関にかかっている患者に算定可能なためであり、当薬局では総合病院前という立地が医療機関数に大きな影響を与えた可能性が高かった。ただし、疑義照会・トレーシ ングレポートを提出した患者では複数科の受診や薬剤数が多い傾向にあった。


薬剤師介入がきっかけとなり多職種連携につながった症例
名倉 縦子

【初めに】近年、医療・介護分野のみならず社会福祉問題などにも包括的に対応でき る地域包括ケアシステムの構築が求められている。一方、地域包括ケアシステムの 中で薬剤師が多職種と連携して活動しているケースは多くない。当薬局は市町村の 自立支援型地域ケア会議に積極的に参加しており、今回、薬剤師の介入がきっかけ となり多職種の連携につながった症例を経験したので報告する。

【症例】70代女 性。3医療機関受診中(内科、整形外科、精神科)。令和4年6月意識喪失で基幹病 院に入院搬送される。左眼窩定骨折、身体皮下出血、首右側あざあり。「夫に殴られ ました。」と本人の証言で虐待案件となる。退院後、高齢福祉課からの本人・配偶者 への電話は着信拒否され、自宅訪問も拒絶されている状態であっため、高齢福祉課 より当薬局に訪問依頼があった。まず、3医療機関で処方されている15種類の薬を 当薬局で一元管理し一包化した。今後の行政介入の手助けとなるよう介護保険や地 域資源の活用メリットも伝えた。

【結果】初回訪問時、自宅にある残薬を全て回収 し、胃腸薬等の重複薬の中止を医師に提案し、11種類へ減薬することができた。一 包化した薬は、お薬カレンダーにセットし自宅壁に設置した。3医療機関の受診日が ばらばらであったため、配偶者へ残薬数を伝え受診日を提案した。薬剤師の訪問に 対しては強い拒否感を示さなかった為、1週間毎に訪問し患者や配偶者とコミュニ ケーションをとるよう努めた。当初、本人は介護保険の利用に否定的であったが、 数か月間かけて信頼関係を構築したことにより、ケアマネージャーも一緒に同行し 介護利用のケアプランを作成できるようになった。

【考察】薬剤師の積極的な活動に より孤立した患者を地域包括ケアシステムの輪に入れ込むことができた症例である。 薬剤師が服用薬剤を見直すために頻回に訪問し、本人や配偶者と信頼関係を構築し たことが、多職種の介入につながったと考える。個々の患者によってアプローチの 方法は異なるが、薬剤師の取り組みが医療と介護の橋渡しにつながるよう最適な支 援を行っていきたい。


コロナ禍におけるかかりつけ薬局の取り組みとその結果
郡 秀和

【目的】近年、薬局に求められているかかりつけ機能や処方の一元化を進めるにあた り新型コロナウイルス対応をきっかけに薬局機能を地域住民や近隣医療機関への周 知、かかりつけ薬局として24時間対応や在宅医療への対応、関係機関との連携体制 構築の取り組みがかかりつけ薬局として門前以外の外来処方せん枚数の増加や集中 率の低下につながるか検証することを目的とした。

【方法】薬局機能を近隣地域や医 療機関に周知するために以下の取り組みを行った。令和4年1月から新型コロナウイ ルス抗原定性検査無料化事業に参加した。また、コロナ治療薬を備蓄し、近隣医療機 関に周知した。令和4年4月から毎月、地域の自立支援型地域ケア会議へ参加し、多 職種に対して薬剤師の職能を周知した。令和4年8月からオンライン診療における対 応薬局に参加した。これらの取り組みを通じて、令和3年と令和4年の処方箋枚数、 及び集中率を比較検討した。

【結果及び考察】集中率は令和4年が平均は94.2%で、 令和3年の平均96.0%と比較し低下した。総処方箋枚数/門前以外処方箋枚数は 13070 / 523枚から13480 / 793枚に増加した。新型コロナウイルス関連の処方せ んは合計43枚であった。処方箋が増加した理由として近隣医療機関から日祝の調剤 依頼が増えたことや、自立支援型地域ケア会議で関わったケアマネージャーからの コロナ関連の相談や在宅訪問の依頼が増えたことが考えられた。さらに抗原定性検 査をした近隣住民が処方箋を当薬局へ持ってきてくれるようになったケースもあっ た。抗原定性検査では令和4年1月~令和5年3月で約1300件検査を行ったが約8割 が当薬局の場所を知らなかったため、当薬局を周知するのに貢献したと考えられる。 以上の結果から、薬局がかかりつけ薬局として役割を果たすためには、地域住民や 近隣医療機関への周知や在宅医療への対応、関係機関との連携体制の構築が不可欠 であることが示唆された。今後も地域医療に貢献するために、引き続きこれらの取 り組みを進めていく事が重要であると考えられる。

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